病理医の視点 ~顕微鏡でみるということ~

病理医は顕微鏡をつかって診ているというお話をしました。ここでいう顕微鏡とは一般に生物顕微鏡などと呼ばれるもので、下から光を当てて透過してみています。この顕微鏡でみるということは、検体を薄く切る必要があり、色を付ける必要があるのです。前者を薄切、後者を染色と言っています。

 

生物顕微鏡でみる検体は、染色方法にもよりますが、3~8μm程度に薄切する必要があります。はっきり言って職人技です。

 

したがって、病理医が顕微鏡でみているものは、ほとんど平面の世界です。これを勝手に「2次元」と呼んでいますが、ある特定のマニアという意味ではありません。というか別のマニアとでも言うべきかもしれませんね。

 

本来、3次元の組織を2次元にしてみているのです。実際には時間経過で組織も変化するので、時間軸を加えると4次元のものを顕微鏡で2次元にしてみているのです。これも勝手に「微分」してみていると呼んでいます。

 

さて、病気を診断する方法にはいくつかあります。

①医師の診察

X線、CT、MRI、超音波などの画像診断

③血液検査

④病理診断

言葉は悪くなりますが、それぞれの特徴は以下のとおりです。

 

①は直接見る方法が主です。たとえば内視鏡検査も消化管などの表面の所見を主にみています。深いところの性状はわからないので、送気して広がり具合をみたり、内視鏡下に超音波でみたりしています。

 

②はいろんな方法を用いて体を輪切りにして、またそれをもとに立体構築してみることができます。ただし、影をみているので、似た影を呈するものは区別が難しくなります。それを補うために造影したり、血流をみたり、硬さをみたり、違う条件で画像を撮ったりしています。

 

③は血液内の成分の変化をみて、病気を見つける方法です。採血をして腫瘍マーカーを調べる、血糖値やHbA1cの値をみるなどがその例です。腫瘍マーカーPSAについてみてみましょう。健診などで検査されますが、PSAが高い場合には腫瘍としては前立腺癌が疑われます。ただ、癌ではなく前立腺肥大症や前立腺炎でも高値になります。血液にあるものをみて間接的に診断しているので、全身状態による影響も受けるし、疾患を一つにまで絞ることは難しいことがあります。

 

④は病気の現物を採取してきて、薄く切って染色して直接みています。病変部を一番拡大してみることができますが、一番拡大している分だけあって全部をみることはできません。また、採取する場所がずれて病変部が採取されていなければ病気の診断はできません。病理診断が最終診断と言われることがありますが、全体をみているとき(手術材料など)と病変の一部をみているとき(生検材料など)ではかなり意味合いが違います。

 

①~④のそれぞれにメリット・デメリットがあること、複数の方法で病変を評価しそこにギャップがないこと、ギャップがあるときにはなぜギャップが生まれたかを考えること、これこそが真の診断につながるのです。